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もしもの時に備えて −最善の医療を選択するために−

アドバンス・ケア・プランニング、人生会議

残念ながら、ICUで集中的な治療を行っても全ての患者さんが順調な経過をたどるわけではありません。より重篤なケースでは、ICUに入る原因となった病気に対する治療をしていても状態が悪化していくことがあります。例えば、悪性腫瘍などの治療抵抗性の病気や患者さん自身の病気に対する抵抗力が低下している場合など、可能な限りのことを継続しても回復を期待できないケースがあります。そのような状況になってしまった場合、『可能な限りのことを継続すること』がその患者さんにとって最善かどうかはこれまでに築き上げた患者さん自身の価値観や人生観によってしか判断できません。しかし、ICUでは患者さん自身の考えを本人から直接聞くことは困難なことが多いのが現状です。もし患者さんが普段から身内の方と人生の最終段階をどのように迎えたいかについて話し合っている場合にはその意思を私たちに教えていただけますでしょうか。患者さんにとって、あるいはあなたにとっての最善の選択をする手助けをすることができるかもしれません。普段から患者さんが家族や医療者と人生の最終段階の治療(エンド・オブ・ライフケア、終末期医療と呼ぶことがあります)をどうするかについて話し合っておくことをアドバンス・ケア・プランニング(ACP、人生会議と呼ぶことがあります)と言います。人生の最期は一度きりしかありません。自分の人生をより良いものにするために人生の締めくくりを自分の希望通りにしたいと考える人が増えています。詳しく知りたい方は以下の厚生労働省や東京都医師会のサイトをご覧ください。

関連サイト

・厚生労働省 「人生会議」してみませんか

人生会議(ACP)普及・啓発リーフレットhttps://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_02783.html

・公益社団法人 東京都医師会 アドバンス・ケア・プランニング(ACP)-人生会議-

www.tokyo.med.or.jp/citizen/acp

ICUにおける人生の最終段階の医療(終末期医療)とは

終末期とは人生の最終段階の時期と言い換えることができます。その時期は患者さんの人生観、価値観によって大きく異なり明確な定義はありません。例えば進行性の悪性腫瘍と診断された患者さんがいるとします。患者さん自身の意思で積極的な治療を行わず、静かに人生の締めくくりの時間を過ごしたいと考えればそれは終末期であり、逆に多少の苦痛を伴う治療は受け入れるがその代わり1日でも長く生きて孫の成長を見ていたいと考えればそれは終末期とは言えません。

 日本救急医学会、日本集中治療医学会、および日本循環器学会の3学会が合同で「救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン」を公表しています。ここではICUなどで治療されている患者さんに対し、適切な治療を尽くしても救命の見込みがないと判断される時期を終末期として定義しています。具体的な例として医療チームが慎重かつ客観的に判断を行った結果として以下の

(1)~(4)のいずれかに相当する場合などがあげられています。


(1)不可逆的な全脳機能不全(脳死診断後や脳血流停止の確認後などを含む)であると十分 な時間をかけて診断された場合

(2)生命が人工的な装置に依存し、生命維持に必須な複数の臓器が不可逆的機能不全となり、 移植などの代替手段もない場合

(3)その時点で行われている治療に加えて、さらに行うべき治療方法がなく、現状の治療を 継続しても近いうちに死亡することが予測される場合

(4)回復不可能な疾病の末期、例えば悪性腫瘍の末期であることが積極的治療の開始後に判明した場合


このガイドラインは「もう何をしても救命できない」という比較的限定された危機的な状況を終末期と想定して作成されています。

一方、患者さんの事前意思やアドバンス・ケア・プランニングの観点から、多種多様な患者さんの人生観や価値観に見合った終末期の考え方に対応するため、厚生労働省は「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」を公表しています。ここでは終末期の判断は患者さん自身の価値観や現場の医療・ケアチームが十分に話し合って決めることが大切であるとされています。本人の意思が確認できない場合にはご家族との話し合いを繰り返して本人の意思を推定してもらい決定します。

医療チーム、本人、ご家族の話し合いによって終末期と判断された場合それ以降の生命維持に必要な治療は延命措置や延命治療と呼ばれることがあります。延命措置を中断・減量することまたは新たな延命措置を追加しないということを治療の差し控え、治療制限などと呼ぶことがあります。これらは、これ以上の措置は患者さんにとって最善の治療とはならず、かえって患者さんの尊厳を損なう可能性がある場合、十分にご家族や関係者に説明し理解してもらった上で検討します。積極的に一部の治療を中断したり減量したりする方法や今やっている治療は続けるが新たな治療を加えないという方法などがありますが非常に難しい問題なので医療者と患者さん、ご家族と十分に話し合った上で方法を選びます。もちろん、患者さんの苦痛を緩和する治療は最大限継続されます。状況によりますが途中で方針を変えたり、引き返す事もあります。

これらの治療の差し控えや制限、苦痛緩和のための治療、患者さんとご家族の心のケアなどを含めた終末期と判断された以降の医療を医学用語では終末期医療、英語ではEnd of life care(エンドオブライフ・ケア)と呼びます。終末期医療という言葉はネガティブな印象を持たれてしまうため、最近では人生の最終段階の医療と呼ばれることもあります。


関連サイト

厚生労働省


一般社団法人 日本集中治療医学会・日本救急医学会・ 日本循環器学会


一般社団法人 日本集中治療医学会


悲しみへの対処

 もしも大切な人の最期を迎える事になったら、私たちは希望と現実のギャップを埋め合わせて死を受け入れなければいけません。死は非常に辛い出来事です。ネガティブな感情が強くなるのは当然です。死を受け入れるには長い時間が必要です。

 死を受け入れる時間は人によって異なります。深刻な病気に直面したとき、悲しみを受け入れようとする精神的なメカニズムが働くのは普通のことです。感情は交互に現れ、時間が経つにつれ、強さを変えながら、順不同に繰り返されることがあります。


否定・拒絶:死は、それが起こる前でも後でも、受け入れられずに拒絶される。このようにして、心は過剰な不安から自分を守り、現実的にも感情的にも自分を整理するのに必要な時間を保とうとします。

怒り:怒りや恐怖などの強い感情が生まれ、あらゆる方向に向かって爆発し、家族や病院スタッフ、神に向けられることもあります。

駆け引き:今起こっていること、あるいは既に起こってしまったことを認識し、悲しみと最初に向き合う瞬間。

抑うつ:大切な人を失ったことを意識し始めたときに抑うつ状態になることが多い。予備性抑うつ状態は、愛する人の死に対する恐怖を先取りし、心の準備をしているかのような状態です。反応性抑うつ状態は、自分の人生のさまざまな側面が変化していることに気づいたときに発生し、強い無力感に襲われます。

受け入れ:ある時点で、感情が理性に従うようになるのは正常な過程です。何が起きているのかを認識することで、怒りや落ち込みから完全には逃れられないかもしれませんが、その強さを抑えることができます。


 愛する人の死に直面したとき、非常に強いネガティブな感情を抱くのは普通のことです。このような感情を大切な人と共有することで、ポジティブな反応が得られ、孤独感がなくなり、この悲しみの時期を受け入れやすくなります。